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2015年1月19日

「改革断行の一年」になるか

12月の衆院選は、事前の世論調査の通り、与党の圧勝に終わった。衆院の議席数は自公併せて326議席となり、参院で否決された法案を再可決できる3分の2議席(317議席)を超え、「一強多弱」が維持される結果となった。衆院選の圧勝を受けて、安倍総理は、平成27年の年頭所感で、「皆様から力強い支援をいただき、信任という大きな力を得た。今年はさらに大胆に、さらにスピード感を持って、改革を推し進める。日本の将来を見据えた『改革断行の一年』として、改革を強力に推し進めていきたい」と述べ、アベノミクスの更なる進化に向けた決意を表明している。

3年目のアベノミクスの課題は二つある。一つは成長力あるいは競争力の強化であり、二つ目は財政健全化への取り組みである。いずれも、金融緩和や財政再建では解決できない課題である。

アベノミクスの成長戦略は、規制緩和によって経済環境を整え、それによって、経営者、労働者、そして地方を活気づけ、それらの潜在的な活力を開花させていくというもので、具体的には、「企業統治(コーポレートガバナンス)改革:企業の長期的な価値創造と稼ぐ力の向上」、「労働市場改革:女性の活躍推進、働き方の改革、外国人材の活用」、「新たな成長産業の育成:攻めの農林水産業の展開、健康産業の活性化」そして「地方再生」がその柱となる。これらはいずれも日本再生のために必要不可欠な構造改革であり、それについて異論の余地は少ない。
しかし、成長戦略を具体化するためには、どうしても越えなければいけない大きな壁がある。一つは、成長戦略の成果が出るまでには相応の時間がかかるため、どうしても国民の不満、いらだち、疑念などが噴出してくることである。二つ目は、成長戦略は構造改革を伴うので、既得権益の打破という荒療治がどうしても必要となることである。こうした大きな壁を乗り越えるために、改革推進主体である政府には、一貫した政治的理念を持ち続け、それを国民と共有すべく粘り強く対話を重ね、必要ならば政治的蛮勇を振るうことも覚悟して事に当たるという不退転の決意が求められる。

3年目に突入するアベノミクスの課題の二つ目は、財政再建である。
金融緩和を続ける必要がある間は、日銀が国債を買い続けても問題が生じる可能性は少ない。問題なのは金融緩和の必要性がなくなった時であり、その時点で財政健全化のめどがついていないと、いわゆる出口に向かうことが出来なくなる。つまり、金融緩和の必要がなくなれば、金融政策としては国債の買い入れを止めるべきであるが、財政健全化のめどが立っていなければ、それは長期金利の高騰を招いてしまう。逆に、そういう懸念から日銀が国債を買い続けると、それはインフレの高進を招いてしまうことになりかねない。こうした事態を回避するためには、金融緩和の必要性がなくなる時点において財政健全化のめどをつけておかねばならない。
財政赤字の主要な要因の一つが「中福祉・低負担」の社会福祉サービスの提供にあることはつとに指摘されているところであるが、今後、これを「中負担」の方向に負担を引き上げたとしても財政の持続可能性が回復できるかどうか疑問視する声も多く、これから先2020年から2030年にかけて危機的な局面を迎えることが予想される中で、「低福祉・中負担」あるいは「中福祉・高負担」という負担が福祉を上回るバランスに変更しなければ財政の持続可能性が回復できない恐れが十分にあるとみられる。
これは極めて「不都合な真実」であり、このような事実を見たくない、聞きたくないというのが政治のみならずわれわれ多くの素直な気持ちでもある。しかし、2年目のアベノミクスは、いくら不都合であっても、こうした真実を直視せざるを得なくなるのではないか。今年は、アベノミクスの正念場である。

大橋 善晃
モークワン顧問
日本証券経済研究所特別嘱託調査員
日本証券アナリスト協会検定会員
(元日本証券アナリスト協会副会長)

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